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徳島地方裁判所 昭和61年(行ウ)3号 判決

原告

圃山靖助

右訴訟代理人弁護士

井上善雄

阪口徳雄

小田耕平

被告

社団法人徳島新聞社

右代表者理事

井端好美

被告

四国放送株式会社

右代表者代表取締役

石川良彦

被告

杉本清

被告

井村幸男

右被告四名訴訟代理人弁護士

岡田洋之

被告

鳴門市長 矢野茂文

(徳島県知事) 三木申三

(徳島県副知事) 亀田博

(徳島県総務部長) 窪田勝弘

(徳島県企画調整部長) 中川浩明

(元徳島県企画調整部長) 木下英敏

(徳島県財政課長) 山野岳義

右被告七名訴訟代理人弁護士

村松克彦

参加人

徳島県

右代表者知事

圓藤寿穂

右訴訟代理人弁護士

田中達也

中田祐児

右訴訟復代理人弁護士

田中浩三

理由

一  本件訴えにおいて、原告は、徳島県が弓道場の占有使用料を含む鳴門総合運動公園使用料負担金を支出したこと及び鳴門ピア開催に関し鳴門ピア実行委員会の構成団体としての他の構成団体よりも多く負担金を支出したことをもって違法な財務会計上の行為とする一方、徳島県の執行機関でも職員でもなく、かつ、支出の相手方でもない者をも被告とし、また、職員が支出権限を有するか否かについて何ら主張しない。

しかし、原告は、徳島県が被告らによる共同不法行為による損害賠償請求権を有するに至ったにもかかわらずこれを行使しないことが財務会計上の怠る事実であるとして本訴を提起しているものと考えられるので、以下これを前提として判断する。

二  請求原因1の事実は関係当事者間に争いがない。なお、被告鳴門市長は鳴門市の執行機関であり、損害賠償義務の主体たりえないから、原告の請求のうち同被告に対する請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないことが明らかである。

以下、その余の被告らについて判断する(なお、便宜上その余の被告らを「被告ら」と呼称する。)。

三  本件占有使用料負担金支出の違法性の有無について

1  お砂踏み設置の憲法二〇条三項違反の有無

(一)  〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

(1) 昭和六〇年八月六日、本州四国連絡橋神戸・鳴門ルートのうち徳島県鳴門市と兵庫県の淡路島を結ぶ大鳴門橋が開通したが、それに先立つ昭和五八年頃、これを記念するイベントとして地方博覧会の形式により鳴門ピアが開催されることになり、昭和五九年二月二一日、その推進組織として鳴門ピア実行委員会が設置された。同委員会には規約(「‘85鳴門ピア実行委員会規約」)があり、それに基づき、役員として会長一名、副会長五名、実行委員長一名及び監事二名が、また、実質的な意思決定機関として実行委員長、副実行委員長及び実行委員で構成する実行委員会会議が、更にその下に、実際の業務執行組織として事務局長、事務局次長及びその他の職員からなる事務局が置かれ、補助金、寄付金品、事業収入等から構成される資産を保有・管理するものとされた。

同委員会は、昭和五九年二月二一日以降活動を開始し、同委員会会議において、規約の制定・改正、予算及び決算の承認、事務局組織の整備等を行う一方、鳴門ピアの実施計画として、企画業者提出の計画書を基に各種展示館の設営を中心としたメインフェスティバルと各種公演や記念行事を中心としたイベントから成る主催事業や協賛事業等の事業内容並びに開催期間、会場、開場時間、施設配置、入場料金、動員見込み、広告宣伝計画、出典、営業等に関する規則の制定等の運営内容を審議・決定し、昭和五九年一二月段階で、運営費、建設費、事務局費などからなる鳴門ピアの総事業費を一二億九八七二万七〇〇〇円と定め、これを鳴門ピア実行委員会の構成団体の拠出する負担金五億八三九〇万円、入場券、イベント会場入場料及びお砂踏みの賽銭からなる入場料収入四億八三一二万円、企業などからの出展料一億二九一五万円などによって賄うこととする財政収支計画が立てられた。

そして、総務部、広報・記録部、催事部、施設部及び警備交通部からなる同委員会事務局において、右の審議・決定の内容に従い、鳴門ピアの具体的な開催準備作業が進められ、鳴門ピア開催期間中は、鳴門ピア実行委員会の下に置かれた実施運営本部が右事務局を統括して鳴門ピアを実施運営することになった。

(2) 徳島県は、鳴門市、被告徳島新聞社、社団法人徳島県商工会議所連合会及び被告四国放送とともに鳴門ピア実行委員会の構成団体となり、知事が同委員会会長に、副知事が被告徳島新聞社社長、鳴門市長、徳島県商工会議所連合会会頭及び被告四国放送社長と並んで同委員会副会長兼副実行委員長にそれぞれ就任し、県の職員五名が被告徳島新聞社の職員五名、鳴門市の職員三名、徳島県商工会議所連合会の職員三名、被告四国放送の職員五名とともに実行委員に加わり、また、事務局長のポストに当初は被告徳島新聞社の調査事業局長が就任したが、後に徳島県の企画調整部長が就任した。

そして、徳島県は、昭和五九年七月から鳴門ピア実行委員会に対する資金の拠出を開始し、同月一二日に鳴門ピア事業費補助金として三〇〇万円を交付した上、鳴門ピアの財政収支計画においても、鳴門総合運動公園占有使用料二億九九九八万一一〇〇円(このうち、本件お砂踏みの会場となった弓道場部分は、五五万六六四〇円)及び構成団体による負担金である一般負担金収入一億五〇〇〇万円のうちの七〇〇〇万円を負担するものとされていたことから、昭和六〇年三月二九日右二億九九九八万一一〇〇円を、同年四月三〇日右七〇〇〇万円をそれぞれ支出したほか、鳴門ピア閉幕後の昭和六一年一月にもテーマ館特別負担金一五〇〇万円のうちの七〇〇万円を負担した。なお、主会場となる徳島県鳴門総合運動公園の占有使用料の二億九九九八万一一〇〇円については、徳島県都市公園条例上使用料の徴収が義務づけられており、徳島県において右使用料を免除することができなかったため、同条例に基づき徴収することを前提として、徳島県が同額の負担金を拠出した。

(3) 鳴門ピアは、その正式名称を「大鳴門橋完成記念‘85鳴門ピアワールドフェスティバル」といい、「大鳴門橋の完成を記念するとともに、明石海峡大橋着工への県民意識を高揚し、あわせてイベントの開催により文化、産業等の発展を期し、活力ある徳島づくりをめざす」ことをその目的として掲げ、鳴門ピア実行委員会の主催により、昭和六〇年四月二八日から同年六月一六日までの五〇日間の日程で徳島県鳴門市撫養町の徳島県鳴門総合運動公園を主会場として開催された。

主会場には、鳴門ピアのテーマを表現した鳴門ピア館を始めとして、徳島の歴史及び物産、外国都市との友好提携記念、郵便事業、科学、エネルギーなどに関するテーマを掲げた各種パビリオン、出店、遊戯施設など合計一八の施設が設置され、そのうち企業、市町村、その他の団体等の外部からの出展によるもの以外に、主催者自らが企画・運営したものが六施設あり、本件お砂踏みもその一つであった。

(4) お砂踏みは、元来、いわゆる四国霊場八十八か所巡礼に行きたくても行けない人々が、その札所の境内の砂を貰い、それを踏むことによってその札所に参拝したのと同じ功徳を得ようとするものであるが、他方、このお砂踏みと併せて又はそれとは別に、八十八か寺の本尊の掛軸を一同に集め、これに手を合わせて参拝することにより四国霊場八十八か所を実際に巡り歩いたのと同じ御利益があるとのふれ込みで行われるものもある。

このような四国霊場八十八か所巡礼を模擬的に行うための行事は、百貨店などの催し物として行われることがあるほか、本件お砂踏みと同様の趣旨から、昭和五九年に高知市で開催された「84高知・黒潮博覧会」の「ミニ四国八十八カ所」や昭和六三年に香川県坂出市で開催された「瀬戸大橋架橋記念博覧会」の「四国八十八カ所お砂ふみ」などのように四国で開催される地方博覧会の一つのパビリオンとして設営されることもあった。

(5) 四国霊場八十八か所巡礼は、四国遍路とも呼ばれ、本来、旧阿波国内の札所を発心の道場、旧土佐国内の札所を修行の道場、旧伊予国内の札所を菩提の道場、旧讃岐国内の札所を涅槃の道場として、徳島県鳴門市所在の第一番札所霊山寺から香川県大川郡長尾町所在の第八十八番札所大窪寺までの弘法大師ゆかりの八十八か寺を中心に約一四〇〇キロメートルに及ぶ全行程を四〇日ないし六〇日をかけて、それぞれの祈願を携えて巡り歩き、各札所毎に納め札を納め、参拝のしるしとして納経帳にその寺の本尊を書き込み、宝印を押してもらうというものであって、その起源については、平安時代とする説、室町中期とする説などがあり、当初は真言宗の僧侶たちによって始められたとされるが、江戸時代には一般にも普及したとされる。八十八か寺の多くは真言宗であるが、天台宗、曹洞宗、臨済宗、時宗などの寺もあり、巡礼は、そもそも宗派を超えたいわゆる「大師信仰」に基づくものである。

また、出立も、本来は、白衣に手甲・脚絆を身につけ、弘法大師が存命で各地を巡礼しているとの信仰から「同行二人」と書いた菅笠をかぶり、草鞋をはき、念珠・金剛杖を手に持ち、札ばさみ、頭陀袋を肩に掛け、笈を背負うものとされ、これらは死後の浄衣として巡礼後保管された。

その後、四国霊場八十八か所巡札は、本来の信仰心に基づく巡礼者も跡を絶たないものの、次第に大衆化・観光化しつつあり、特に昨今は、交通手段の発達と観光ブームによりその傾向に拍車がかかっており、さらに、本来の信仰心に基づく者も出立を整えることなくバスを使うことにより全工程を一三日ないし一六日で巡る者も多くなっている。

また、最近は、各札所とそれをとりまく自然がハイキングコースや観光コースに組み込まれ、観光バスや自家用車等の交通手段を利用して訪れる者が多くなっている。さらに、従前、巡礼者は札所の門前町や沿道に住む人々によって手厚くもてなされ、かつては道中の村々には善根宿と呼ばれる宿があり、無償で宿泊することができたが、現在はその多くが民宿となっているばかりでなく、観光客を当て込んだ旅館やホテルが建ち並び、バス会社、タクシー業者、土産物店なども発達している。

その結果、四国霊場八十八か所は、仏教各派の宗教施設ないしは弘法大師信仰の場である一方、四国の主要な観光資源としても位置づけられており、その点は、旧阿波国内の第一番札所霊山寺から第二十三番札所薬王寺までの二十三か寺と香川県との県境に近い第六十六番札所雲辺寺を抱する徳島県においても同様である。

(6) 鳴門ピア実行委員会は、鳴門ピアにできるだけ幅広い年齢層から多くの来場者を得るとともに、四国及び徳島の主要な観光資源としての四国霊場八十八か所巡礼を内外に紹介する目的で、八十八か寺の本尊を描いた掛軸を並べるとともに、各掛軸の前にそれぞれの札所の砂を入れた袋を敷き込むという本件お砂踏みを鳴門ピアにおける主催者出展の催し物の一つとすることとし、第十九番札所立江寺に対し、その設営に協力するよう依頼し、八十八か寺の本尊を描いた掛軸一式の貸借を受けるとともに、実際の運営方法を相談するために四国における真言宗各派で構成する任意団体の不二会及び四国霊場八十八か所のうち徳島県下の旧阿波国内における札所の集まりである四国霊場会阿波部会を紹介された。

そして、本件お砂踏みは、鳴門ピア開催期間中の昭和六〇年四月二八日から同年五月三一日までの三四日間、主会場である鳴門総合運動公園内の弓道場内に設置されたが、その内容は、四国霊場八十八か所の各寺院及び高野山金剛峰寺の本尊を描いた掛軸を並べ掛け、それぞれの前方には賽銭受けのための三宝又は賽銭箱及び供物を載せた高杯を置くとともに、入場者が右掛軸の前に立った時の足元の床には右の各寺院の境内から取り寄せたという砂を約一〇センチメートル四方づつ敷き込むというものであり、入場者は、弓道場玄関の「お砂踏み」の看板のあるゲートをくぐると、ブレザーの制服の上から巴の印の入った衿の部分だけの袈裟を着用し、「お賽銭両替いたします。」という立て札の立った机の内側に控えたコンパニオンの出迎えを受けた後、四国八十八カ所霊場会阿波部会などの団体から交代で派遣された県内の真言宗の僧侶から塗香や洒水を受けることになっていた。そして、入場者の中には敷き込まれた砂を踏みながら掛軸に対し合掌して回る者や賽銭を置く者もいたほか、中には掛軸の前で経を唱える者もあった。賽銭は総額で約一五〇万円程度集まったが、収支計画どおりすべて鳴門ピア実行委員会の収入とされ、四国八十八カ所霊場会阿波部会などから派遣されてきた僧侶らに対しては、鳴門ピア実行委員会から食事の用意がされたほか、交通費等として一人一日一万円程度の謝金が支払われた。

以上の事実が認められる。

(二)  右認定事実によれば、鳴門ピア実行委員会は、徳島県、鳴門市、被告徳島新聞社、社団法人徳島県商工会議所連合会及び被告四国放送を構成団体としながらも、組織的には、規約に基づいて独自の意思決定機関及びその執行のための機関等を整備し、独自の活動として鳴門ピアの開催準備及び開催を行い、さらにそのために固有の資産を保有・管理していたものであるから、一応は構成団体から独立した一個の団体とみるべきである。徳島県は、右委員会の構成団体として筆頭に名を連ね、組織面においても、知事及び副知事を会長、副会長にそれぞれに就任させたことに加え、実務上重要なポストにも被告徳島新聞社と並んで多くの職員を派遣するとともに、財政面においては主たる財源負担者となっていたほか、前記のとおり徳島新聞における県広報のページにおいて鳴門ピアの宣伝を行うなど、実質的にも鳴門ピア実行委員会の運営及び鳴門ピアの開催において中核的役割を担ってきたものと認められるから、同委員会が自ら鳴門ピアの催し物として出展した本件お砂踏みの設営にも主体的かつ直接的に関わっていたものというべきである。

(三)  ところで、憲法は、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」(二〇条三項)と定めるが、右にいう宗教的活動とは、およそ国及びその機関(地方公共団体も含まれる。)の活動で宗教との関わり合いを持つすべての行為を指すものではなく、当該行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長又は圧迫、干渉等になる行為をいうものと解すべきである(最高裁昭和五二年七月一三日大法廷判決・民集三一巻四号五三三頁、同昭和六三年六月一日大法廷判決・民集四二巻五号二七七頁)。右見地に立って、本件について見るに、前記認定事実によれば、本件お砂踏みの設置目的は、大鳴門橋の完成記念などのために開催された地方博覧会である鳴門ピアにおける催し物の一つとして、四国らしさを演出し、それに幅広い年齢層の来場者を獲得するとともに、四国霊場八十八か所を四国の主要な観光資源として紹介するという世俗的なものにすぎず、またその効果は、僧侶が清めの儀式を行ったり、賽銭受や賽銭箱を用意するなど、人の信仰心に訴え又は宗教的雰囲気を醸成している部分があることは否定できないものの、施設そのものが四国霊場八十八か所を模したものとしては極めて簡易化されたもので、地方博覧会の一催し物として行われたものであること、その開催期間は三四日間と短いこと、さらに四国霊場八十八か所及びその巡礼が既に相当の周知性を有し、昨今はその観光資源としての側面が大きくなっていることなどからして、仏教各派や弘法大師信仰を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるほどのものとは認められない。したがって、本件お砂踏みの設置は、憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動には当たらないと解するのが相当である。

2  本件占有使用料負担金支出の憲法八九条、地方自治法二条一五項、一三八条違反の有無

憲法は、「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、・・・これを支出し、又はその利用に供してはならない。」(八九条)と規定するところ、右にいう宗教上の組織若しくは団体とは、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すものと解するのが相当である(最高裁平成五年二月一六日第三小法廷判決)。前記認定事実によれば、本件占有使用料負担金支出の相手方である鳴門ピア実行委員会は、大鳴門橋の完成記念などのために開催された地方博覧会である鳴門ピアの推進組織として、徳島県、鳴門市、被告徳島新聞社、同四国放送及び徳島県商工会議所連合会を構成団体として設置されたものであり、その活動も鳴門ピアの開催準備及び主催であって、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体ではないから、右支出は同条に違反するものとはいえない。

他に、右支出が地方自治法二条一五項、一三八条の二に違反するものと認めるべき事由はない。

四  本件鳴門ピア負担金等の支出の違法性の有無について

地方自治法二三二条の二は、「普通地方公共団体は、その公益上の必要がある場合においては、寄付又は補助をすることができる。」とするところ、同条は、公益上の必要性が客観的に認められる場合でなければ、個人又は団体から相当の反対給付を受けることなく当該個人若しくは団体に対し金銭等の供与又は供与の約束をすることはできない旨を規定するものであり、したがって、右の「寄付又は補助」には、地方公共団体が特定の事業の遂行を目的とする任意の団体の構成員となり、当該団体の必要経費に充てるために構成員間の取決めに従って支払う負担金も含まれるものと解するのが相当であるから、本件鳴門ピア負担金等の支出にあたっても、公益上の必要性が客観的に認められなければならない。

前記三の認定事実によれば、鳴門ピア実行委員会は、「大鳴門橋の完成を記念するとともに、明石海峡大橋着工への県民意識を高揚し、あわせてイベントの開催により文化、産業等の発展を期し、活力ある徳島づくりをめざす」ことをその目的として掲げた鳴門ピアの推進組織として設置され、鳴門ピアの開催準備及び運営をその事業内容とするものであるところ、成立に争いのない丙第一号証によれば、大鳴門橋及び明石海峡大橋は、京阪神地方と四国・徳島とを陸路で直結する本州四国連絡橋神戸・鳴門ルートを構成するものであって、他の本四架橋とともに四国の離島性を除去し、四国・徳島の産業振興を図るものとして、地元の行政、産業界などから多大な期待が寄せられていたことが認められるから、徳島県において県民意識を高揚させ架橋事業の推進を企図すること、さらに、博覧会場の設営の際の資本投下による経済に対する波及効果や地元文化の紹介による観光資源の宣伝効果を期待することは、いずれも公益性を有するものと解される。

また、前記三の認定事実によれば、鳴門ピア実行委員会により鳴門市総合運動公園に主会場が設営され、自治体、企業、団体等により各種パビリオンや催し物の設置が行われるとともに、〔証拠略〕によれば、鳴門ピアには当初予定を一万九〇〇〇人程上回る入場者があったほか、交通施設の整備のための公共事業投資もあり、鳴門ピア実行委員会においてもこれらの資本投下、消費等による生産誘発額を五八億円余りと試算していることが認められるから、鳴門ピアの開催内容が前記目的に照らし不適当なものであったということはできない。

さらに、原告は、徳島県が鳴門ピアの宣伝広告のために公金を支出することは理由がなく違法であると主張するが、前記認定のとおり、公益性を有する鳴門ピアの開催にあたり、徳島県がその主催者である鳴門ピア実行委員会の構成団体となり、その運営において中核的役割を果たしていたことからすると、鳴門ピアの開催を内外に知らしめ、より多くの入場者を集めるために右宣伝広告を行い、そのために本件掲載料を支出することには正当な理由があるというべきである。

してみれば、本件鳴門ピア負担金等の支出は、公益上の必要性が認められるから、地方自治法二三二条の二に違反するものではなく、また、原告の主張する地方自治法のその他の規定にも違反しない。

なお、原告はこの点に関し、鳴門ピアの収支が赤字であるとか、徳島県はその財政事情が逼迫しているにもかかわらず鳴門ピア実行委員会の他の構成団体よりも多くの財政負担をしていることが不合理、不公平であるなどと主張するが、前掲甲第一号証の七によれば、原告のいう赤字は、鳴門ピア実行委員会の構成団体からすれば拠出した負担金等の回収が図れなかった部分にすぎず、その点を含めて徳島県が他の構成団体よりも多くの財政負担をしたとしても、前記認定の鳴門ピアの開催目的の公益性に照らせば、これをもって明らかに不合理、不公平ということはできない。

五  結論

以上によれば、本件占有使用料負担金の支出及び本件鳴門ピア負担金等の支出のいずれにおいても原告の主張するような違法性はない。よって、原告の請求はいずれもその余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 朴木俊彦 裁判官 近藤壽邦 佐茂剛)

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